
2006.06.29
9人→10人
教育センターでの勤務を終え、最寄りの駅に着く。エレベーターの扉が閉まりかけたそのとき、よく目立つ黄色の帽子をかぶり、真新しいランドセルを背負った小さな男の子が滑りこむようにして乗りこんできた。
その後ろから、お母さんらしき人が続く。扉が完全に閉まったところで、そのお母さんは「ふうっ」と大きく息を吐き出すと、ようやく顔を上げた。そして、僕と目が合った。
「あ、乙武さん!」
いつものことなので、たいして気にもせず、「あ、どうも」と軽く会釈をして、その場をやり過ごそうと思った。けれども、そのあとにお母さんが口にした言葉を耳にしたら、どうしたってそんなわけにはいかなくなってしまった。
「この子ね、今年から富久小の一年生になったんですよ」
富久小の名前を覚えている方が、どれくらいいるだろうか――。昨年6月17日のメール「小さな運動会」で、全校児童数100人以下という新宿区内で最も規模の小さい学校について触れた。小さいながらも、その特徴を生かしたステキな運動会は、僕の心に深く刻まれた。
また、この内容はリライトしたうえで『月刊現代』(講談社)での連載でも書かせていただいた。きっと、このお母さんはそのどちらかを読んでくださったのだろう。
「乙武さんのあの文章を読んで、ぜひこの学校にお世話になりたいと思ったんです」
母親から、「ねっ?」と同意を求められた男の子は、ぽかんと口をあけて僕と母親とを交互に見上げている。
「いやあ、ホントですか? それはうれしいなあ」
その言葉に、うそはなかった。
昨年4月から「新宿区子どもの生き方パートナー」として活動するなかで、僕自身が得たもの、勉強になったことは数え上げればキリがない。ただ、その反面、気になっていることもあった。区民にとって、新宿区の子どもたちにとって、いったいどれだけの力になれているのだろうか、と。
訪れた先の学校では、先生方が「子どもたちも乙武さんから元気をいただいたと思います」と言ってくださるけれど、それは数値化できるものでもないし、目に見えて実感できるものでもない。社交辞令だと受け取ってしまえば、それまでだ。
だから、僕は本当に子どもたちの役に立っているのか、いまひとつ疑心暗鬼なところがあったのだ。
ところが、いま目の前にいる家族は、僕の文章から人数が少ないなりの魅力を感じ取ってくれ、この学校で6年間を過ごしたいと思ってくれたのだ。
家に帰り、新宿区で僕の担当をしてくれているKさんに電話を入れた。彼女も、もちろんよろこんでくれた。
「あ、ちょっと待っててくださいね」
1分もしないうちに、ふたたび電話の向こうで声が響いた。
「いま調べてみたんだけど、今年の富久小の新入生は、ちょうど10人」
ということは――。
「もし、そのお子さんがいなければ、ついに一桁まで割り込んでいたかもしれないですね……」
うれしい。けれど、同時に強い責任感もあらためて感じた。あとは、あの少年が9人の仲間とともに素晴らしい小学校生活を送ってくれることを祈るばかりだ。
2年目の任期は、残り9ヶ月。少しでも子どもたちの力になれるよう、精一杯取り組んでいくつもりだ。
2006.06.29 | 固定リンク | コメント (9) | トラックバック (1)
コメント
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少子化と言われる昨今で、「新宿区」という街で・・・
また、子供たちの為の<何か>を取り組もうとすれば?
決して、多くの人間に同じような理解を得られる訳ではなく、
少数の人たちの、ごく数人しかそれを認知しないし?
また、もしかしたら(知らない為に)勘違いを
する人々も、中にはいるだろう。 でも、今の
大人がイエスと言えば、それは「子供を無視」
しているかも知れないのである。 だから(笑)
乙武くんじゃなきゃ分からない、気づかない
かも知れないことを、大人と子供の間で見て
考えて、取り組んで伝える人間が必要なのです。
少ないからこそ、その子供たちを識ることが?
大人の仕事、今やるべき役割なのではないか
と思います。 そして、それを「新宿区」では
乙武くんがやっていること。 乙武くんが用賀に
いたら、新宿区はどうなっていたのでしょうか?
君がいたこと、君が「新宿区」で育ったことが
宝を生みました。と(笑)お姉さんは思います!
投稿者: 鈴木霄 (2006/07/06 3:42:58)
おれは小学校の頃は同級生が20人程度しかいませんでした。そのためクラス替えはなく,中学校のクラスがえの時は(このころは110人いました)少しドキドキしたのを覚えています。
でも人数が少ないおかげでみんなのことをよりよく知ることができました。
このころはこれが普通だと思っていましたが,今思うと田舎だな~というのをすごく感じます。しかしこれはこれでまたよかったかなとも思えます。
投稿者: 知季 (2006/06/30 21:50:24)
私の住む学区はここ最近マンションなどが増え、
それに伴い子どもの数も増え、小中学校の学級数も増えているようです。
我が子の時には考えられなかったことです。
子どもの数によって学校も先生の手配、教室の手配が大変だそうです。
国の対策として、先生の数、授業、教室など、常に補充できるよう余裕をもてることが、大切ではないかと思います。
その場しのぎでなく、子どもたちにとって何が大事かを考えて柔軟な対応をしてほしい。
投稿者: うらちゃん (2006/06/30 16:13:22)
10人ですか・・・私の今住んでいるところもかなり都会ではあるのですが、小学校は人数多くて二クラスで、少なければ1クラスです。女児童は学年で平均18人です。少ないですよね。私の時代で考えたら考えられないです。でもOTOさんの文章を読んで入学を決めたというのは、やはりOTOさんの熱意と気持ちが伝わったからでっすよね。素晴らしいですね。これからも頑張って下さい!!
投稿者: 美姫ヒカル子 (2006/06/30 9:19:25)
現在新宿区内の大学に通っているんですが、
実は大学の教育インターンシップで実習に行った小学校で、
乙武さんにお会いしたことがあります。
ゆっくりとお話をする時間はなかったのですが、
担当していたクラスで乙武さんのお話を聞きました。
教室に入ってすぐにこのクラスのいい所に気づかれて、
児童達にお話をして頂いたのがとても印象的でした。
乙武さんが帰られた後に生徒がとても喜んでいましたよ。
乙武さんのおっしゃる通り教育は数値化できないから難しいと思います。
そして、何かのアクションに対してすぐに効果が出ない場合もあるので、
何がその時に合った行動なのかはいつも考えてしまう所です。
「新宿区子どもの生き方パートナー」の取り組みはとてもいいものだと思います。
是非、多くの子どもたちに様々な事を伝えていってください。
私も数年後に教員として中等教育に従事していきたいと思っています。
子どもたちの将来のためにがんばっていきましょう。
投稿者: げんちゃん (2006/06/30 5:12:20)
小さな学校いいですね。
私も田舎の小さな小学校で給食のおばさんがいて、なーんか家族のようなコミュニケーションがあって楽しかったなぁ~。
私の今住んでいる市にも、山の楽しい小学校ができました。
前に乙さんが「世界で一番楽しい学校??」ってテレビ番組でレポーターをした時に紹介した日本の学校の校長先生だった人が、自分の故郷にも是非作りたいと呼びかけ、全校で20人位の学校ができました。私も評議員で関わらせていただいていますが、自然の中で肌で体験することって、子どもたちの目の輝きが違ってきますよね。
投稿者: コロミー (2006/06/30 2:38:39)
9人じゃあ、二人三脚も一人あぶれちゃうし、
1人増えただけで大きな力に変わりますね。
小さな輪で大きく心の手をつないでいけたら楽しいですね。
投稿者: racdasan (2006/06/30 1:00:59)
初めてコメントさせていただきます。
私は北海道の田舎で育ちました。
小学校入学時、25人が同級生でした。
クラス替えも無く、給食も無く、テレビを見ては人数の多い学校に憧れを抱いてました。
でも、あの仲間の少ない田舎の学校で過ごした生活が、今はとても大事な思い出です。
あの学校でなければできなかった経験が沢山あったので。
乙武さんの文章から、規模の小さな学校の良さを感じてくれる人がいることを知って、とても嬉しく思います。
投稿者: アコ (2006/06/29 23:54:53)
素敵なお話し。
私もほんのほんのちょっとでも、人の役に立ったり、人に良い影響を与えることができると幸せを感じる今日この頃。
投稿者: りょう (2006/06/29 22:37:37)
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