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2005.07.01

“おかえりなさい”

 僕がまだ高校生だった90年代初頭、プロ野球の人気は危うい状況にあった。長嶋茂雄や王貞治といったスパースターの引退から十数年。当然、彼らに匹敵するほどのスターを生み出せるはずもなく、球場に足を運びたくなる選手はほとんど見当たらなかった。

 そして、93年にJリーグ開幕。華々しいスタート、きらびやかな世界に、僕らは目を奪われた。巻き起こった空前のサッカーブームに、プロ野球はますますファンを離れの危機に瀕していく。
 
 そのとき、プロ野球界は人気回復のため、どんな手を打ったのか。

 結論から言えば、何も打たなかった。イチローというスターの“偶発的な”誕生と、長嶋の巨人監督復帰という「12球団あるうちの1球団が打ったに過ぎない一手」が、一時的とはいえ、その危機を救ってしまったからだ。

 プロ野球界の歴史を次々と塗り替えてみせるイチローの活躍が、ファン離れを食い止める結果となったことに、大きな驚きはない。ただ、僕らの世代にとっては、たんなる“陽気なオジサン”でしかない長嶋の監督復帰が人気回復の有効な手立てとなったことには、驚きとともに多少の疑問を感じずにはいられなかった。

 マスコミも、嬉々としてその策に乗った。00年、長嶋が背番号を往年の「3」に戻すと、その上に着こんだウインドブレーカーをいつ脱ぎ捨て、「3」のユニフォーム姿を披露してくれるのか、連日、報道した。テレビをつければ、60歳を超えたオジサンが“脱ぐか、脱がないか”。正直、うんざりした。

 今週日曜日、脳梗塞から復帰を果たす長嶋が、東京ドームでの巨人×広島戦に元気な姿を見せるという。過酷なリハビリを経て、ふたたび僕らにあの明るい笑顔を見せてくれるのは、とてもよろこばしいニュースだ。

 だが、どうも報道を見ていると、それを“よろこばしいニュース”以上のものに仕立てようとする意思が見え隠れしてならない。高橋由伸がホームランを打てば“長嶋さん効果”と報じ、あるニュース番組では“復帰までのカウントダウン”など始める始末。

 12年前の過ちを、もう一度、繰り返すつもりなのだろうか。末期症状まで行き着いた野球界の行く末を、老いたカリスマに負わせようとするマスコミの考えのなさと残酷さに、僕は憤りすら感じている。

“長嶋さん、おかえりなさい”

 その言葉の裏に、視聴率や発行部数といった打算を見ているのは僕だけだろうか。

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